学童クラブの指導員の処遇改善を求める請願が約3万筆の署名とともに出されました
12月議会には、横須賀市内の学童クラブが所属している『横須賀市学童保育連絡協議会』のみなさまから『請願』が出されていました。
何故ならば、かねてフジノが指摘してきたように、横須賀の学童保育の現状は極めて厳しいからです。
横須賀の学童クラブの劣悪な現状(市に責任あり)
- 横須賀の学童保育の保育料は全国ワースト1位クラスの高さ
- 指導員(放課後児童支援員)の労働状況はきわめて深刻な為、新規採用後の離職率もとても高い
- ニーズが高いのに学童クラブの数が足りず、待機者が多い
厚生労働省の『賃金構造基本統計調査結果』のデータ(平成26年度調査)と、『横須賀市学童保育連絡協議会』から頂いたデータをまとめると、賃金に関してこんな状況があります。
職種 | 平均年齢 | 平均月収 | 平均勤務時間 |
---|---|---|---|
横須賀市職員 | 43.5才 | 44万9,887円 | 160時間 |
小学校教諭 | 43.0才 | 37万0,000円 | 160時間 |
幼稚園教諭 | 32.4才 | 23万0,000円 | 171時間 |
保育士 | 34.7才 | 21万6,100円 | 168時間 |
横須賀の学童クラブ 指導員(常勤29名) |
35.3才 | 17万0,000円 | 140時間 |
どの職種も重要な『対人社会サービス』に関わるものですが、極めて厳しい現状があります。
特に学童クラブ指導員の現状は、その職責の重さに反比例して低い賃金となっています。
今回出された請願には、約3万筆の署名も添えられていました。
請願の全文は以下の通りです。
板橋 衛様
請願者氏名
横須賀市学童保育連絡協議会
放課後児童クラブの安定的運営と質の向上に資する補助金交付を求める請願
【請願の趣旨】
横須賀市には、2015年9月現在48小学校区に59の放課後児童クラブがあります。
留守家庭児等の3729人の内1555人 (2014年4月現在)が放課後を過ごしています。
民設民営により設立・運営され、国の放課後児童健全育成事業の国庫補助金と横須賀市独自の家賃補助等、利用料金等で賄われています。
横須賀市も補助の拡充を行ってきましたが、「設立・運営ができなし」「職責に見合った待遇で指導員を置くことが出来ず安定した運営が難しい」「利用料金も高く利用できない」等、様々な課題を抱えてきました。
放課後児童クラブについても、市町村が実施する『地域子ども・子育て支援事業』に位置付け、2014年9月議会において、一定水準の質の確保に向けた取り組みをすすめるために国が策定した、「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準(平成26年厚生労働省令第63号)」を踏まえた条例を議決しました。
同時に国は、「集団の中で子どもに保障すべき生活環境や運営内容を明確化し、事業の安定性や継続性を確保する必要がある」とし、『放課後児童クラブ運営指針』を策定しました。
また、その財源措置として、補助項目と補助額を増やし、放課後児童支援員の処遇改善や、補助額が低い 19人以下の学童クラブに対する補助にも取り組んでいます。
各放課後児童クラブでは、条例を満たすべく、放課後児童支援員の複数配置、関所時間の延長等様々な対応を行ってきましたが、横須賀市は、諸課題を軽減する国の補助項目を事業化することなく、4月条例を施行しました。
多くの放課後児童クラブが、さらに厳しい運営を強いられています。
横須賀市が、新制度の理念を踏まえた財源を確保し、以下の国庫補助項目に取り組むよう求めて請願いたします。
【請願項目】
横須賀市における放課後児童クラブの安定的な運営と質の向上を図るために、
- 来年度、確実に国庫補助 「放課後児童支援員の処遇改善事業(常勤・非常勤の配置)」に取り組み、各放課後児童クラブに補助金を交付すること 。
- 1で要望した事業の今年度分については、市の補助割合である3分の1にあたる額で補正予算を組み、各放課後児童クラブに補助すること。
これは、決して特別な要求ではありません。
国が正式に用意してある補助メニュー(放課後児童支援員等処遇改善等事業)を、現在、横須賀市では利用していません。
(他のまちでもせっかくの補助メニューを活用していないことが問題になっています)
これを活用すれば、指導員のみなさまの処遇改善が(少しですが)実現できて、こどもたちの命と暮らしを守ることにつながります。
だから「横須賀市も国の補助メニューを導入して欲しい」という当たり前の願いが請願には記されています。
請願項目は2つあり、1つ目は「来年度は必ずこの補助メニューを予算化してほしい」というもので、2つ目は「今年度も補正予算を組んでこの補助メニューを予算化してほしい」というものです。
フジノはどちらの請願項目にも賛成(全部採択)の立場です。
教育福祉常任委員会での議論は、一部採択へ
『請願』を審査する教育福祉常任委員会では、フジノも質疑を行ないました。
残念ながら答弁がとても分かりづらく『官僚答弁』になっています。そこでカッコ赤でフジノが解説を入れてあります。
フジノの質問
今までの(他の委員との)質疑をお聴きしていても、
「こども育成部長も教育・保育支援課長も本来は制度を深く理解しておられて、指導員のみなさんや運営委員会のみなさんと同じ気持ちなのではないかな」
と苦しい想いで聴いていました。
自分の所管が教育福祉常任委員会なので、本来市長に一般質問の場で、もう6月の時点でこの処遇改善について市長にお聴きしたかったのですが、所管委員会なのでお聴きできなかったのですけれど
(*横須賀市議会では自分が所属している委員会の所管事項は、本会議で市長に質疑できません)
「部長も課長も市長の姿勢に引きづられて、こういう答弁をせざるをえないんだなあ」と思いながらお聞きをしていました。
ただこの委員会で質疑するしかないので、あえて部長にお聴きをいたします。
本来でしたら『市長に聴くべきこと』と思っています。
学童クラブ、今回は『処遇改善事業』がテーマとなっていますが、何故これを誰の為にやるんだというふうに部長は認識しておられますか?
こども育成部長の答弁
やはりこどもであり、そのこどもを育てている保護者の方であると思います。
フジノの質問
そうなんです。
「こどもたちの為にやる取り組み」なんですよね。
表面的な制度だけ見てしまえば、指導員さんの処遇改善というふうにみえてしまうのですが、こどもたちの健全な成長、放課後の長い長い時間、それから休日祝日・夏季長期休暇を健やかに育ってほしいという、そういう「こどもが主役になれる」為の取り組みなんですよね。
(*他会派の質疑の中には、処遇改善は指導員だけを利するものではないかとの誤解がありました。フジノの考えは全く違います。指導員の立場が安定したものでなければこどもを守ることはできません。処遇改善は「こどもたちの為」なのです)
それを本来であれば、6月の補正予算の時に僕は教育福祉常任委員会で「補助金の交付要綱を読みましたけれども『障害児の受入強化加算』の他にもあるんじゃないですか」とお聴きした時に「今の段階ではこの項目にとどめた」というご答弁を頂いて「さらに研究をすすめていく」ということで、実際には研究していただいていてもうこの処遇改善も念頭にあったんだと僕は受け止めているのですね。
ですから、
「本当に市長の責任は重いな。部局に押し付けて、部局に苦しませて、部局といろんな方の対立構造を作る市長の責任というのは本当に重いな」
というふうに、非常に不快な市長に対する想いを持ちながら今質疑をしています。
今のが大きなお話なのですが、ちょっと各論も質問させて下さい。
(部長・課長は答弁としては)「財政が、財政が」と言わざるをえないと思うのですが、僕は試算してみたのですが、みなさんもとっくに試算しておられると思うのですが、これに対する費用って90万円×59クラブですよね。課長、それで合っていますか?
教育・保育支援課長の答弁
90万円では無いかと思います。
金額的にはですね、国の補助金の項目なのですが、153万9000円というのが上限の項目が1つと、もう1つの方が283万1000円という2つのメニューがございます。ただ、これの3分の1になる、ということでございます。
(*これもフジノの質問を否定するような答弁ですが、結論はフジノの質問の通りです)
フジノの質問
283万円ベースで考えると、市は3分の1ですから約90万円で、59クラブで約4300〜4400万円ですよね、1年間の予算。
これを出せなくて「こどもが主役になれるまち」と謳って良いのか。
同時期の補正予算で、『自転車半島宣言』を出しているから3ヶ所にマイルストーンを置くなんていうのに数百万円のお金をかけるんですけど、
「そちらにお金をかける、なんてくだらないんだ!そちらにお金をかけるならこっちに持ってこいよ!」
というのが『こどもが主役になれるまち』を標榜する市長に言いたいことなんですね。一般質問で言えないのであれなんですけれど。
(処遇改善の為の)4310万円というのは横須賀市の財政規模からすると、決して「こどもが主役になれるまち」である横須賀にとっては大きなダメージではないと僕は考えています。
もちろん他に国保の会計も観ていますし一般会計だけでなく他の会計も見ていますし、「何故これができない!」というすごく悔しい気持ちで観ています。
次の質問なんですが、仮にこれが国・県・市の協調補助で満額を出せた場合、283万円を僕は想定しているのですが、出せた場合、かねて僕本会議で質疑させていただいているのですが、学童クラブの指導員さんたちが雇用状況がやや違法状態に近いような処遇がある、訴訟リスクありうる、それに対して市は条例を作った後は市の公的責任になんだから訴訟された時は市も責任を取らなければならないよというお話をしたのですが、この補助を出せたらば訴訟リスクの回避に大きく寄与しますよね。
いかがですか?
教育・保育支援課長の答弁
それも含めて実は今現在どういう処遇でいらっしゃるのかというのが私どもきちんと把握できていないというのが現状でございます。
フジノの質問
いや、「本当は把握しておられるんじゃないかな」と思いながら(苦笑)答弁をお聴きしていました。
10年間務められた方が本当は続けたいのに辞めなければならない事例とか本当は全部お聴きしておられると思うんですよ。部局は全部知っておられると思います。
次の質問ですが、処遇改善できれば各学童クラブ、(指導員を)採用しやすくなりますよね?
教育・保育支援課長の答弁
できないとは思いません。
(*これも官僚答弁で分かりづらいのですが、「できないとは思わない=できる」です)
フジノの質問
それから、現在保護者の方々が多く負担している保育料をかなり下げられることにつながるのではないかと推測するのですが、少なくとも10%くらいは下げられるのではないかと思うのですが、ご見解をお聞かせ下さい。
教育・保育支援課長の答弁
基本的にはこの処遇改善というのは、最終的には保育料にも響くかもしれませんが、これ自体は保育料とは実は別というのが考え方が基本的なことでございます。
ですが、やはりそこで処遇改善すれば多少それは出るとは思います。
(*これも官僚答弁ですが、「処遇改善すればそれは出る=処遇改善は保育料引き下げにつながる」です)
フジノの質問
ほとんどの学童クラブが質の高い指導員のみなさんを確保・引き止める為に保育料から指導員のお給料を少しでも高くというふうに捻出しているという状況もきっと課長もご存知ではないかなと思います。
特に横須賀の指導員の方々というのは全県を回ったり全国を回って、指導員の講師として講師もつとめておられるような方がたくさんおられます。
そういった方々を、結婚ができない、生計が維持できないというような理由で辞めさせてしまっているような現状というのは本当にこどもたちのことを考えると不幸な現状だなと思います。
最後の質問ですが、いろいろな現実的な事務的な問題をお聴きしましたが、仮に『請願項目2』が可決された場合はそういったことも一緒に部局としては汗をかいて、各学童クラブと一緒に、運営委員会のみなさんと一緒に、指導員のみなさんと一緒に、この補助が支給できるように汗はかいていただけるんでしょうか。
教育・保育支援課長の答弁
事務処理については汗をかくことについては全くいといません。
質疑応答は以上です。
委員会での結論は「請願項目1のみ採択(一部採択)」
委員会での議論は、大きく2つに分かれました。
- 補助メニュー導入の必要性は認めるが、補正予算を組んでまでやるべきではない。来年度からやれば良い(一部採択)
- 補助メニュー導入は当然であり、補正予算を組んで今年度もすぐ対応すべきであり、来年度も当然やるべきだ(全部採択)
ねぎしかずこ議員(共産党)、小室たかえ議員(ネットワーク運動よこすか)、フジノの3名は『全部採択』を主張しました。
しかし、他の会派は『一部採択』を主張しました。
議員同士での議論もありましたが一致することができず、最終的に多数決を取ることとなりました。
その結果、『一部採択』が多数可決となりました。
本会議での結論も「請願項目1のみ採択(一部採択)」となりました
会派構成は委員会も本会議も変わりませんので、今日の本会議での最終的な結論も同じでした。
フジノら3人の委員は『全部採択』を主張している立場から、『一部採択』には反対をしました。
けれども最終的に『請願』は『一部採択』が決定しました。
つまり、「来年度からの処遇改善事業は必ず予算化せよ」というのが市議会の意志として決議されたのです!
今すぐ処遇改善をすべきだと訴えてきたフジノにとって残念ではありますが、それでも大きな前進です。
これまで何年にもわたってずっと処遇改善を訴えてきたのですが、これまでは実現しませんでした。
しかし、ついに市議会が1つとなって「学童クラブの指導員のみなさんの処遇改善が必要だ」と一枚岩になれたのです。
『請願』を採択した以上、横須賀市は来年度から必ずこの補助メニューを予算化すべきです。
この補助メニューを実現したとしても、命を預かる学童クラブ指導員のみなさんの処遇が劇的に向上する訳ではありません。
今までよりは少しマシになる。
少しマシになった分だけ、保護者が強いられてきた高い保育料が少しだけ下げられるかもしれない。
それだけのことなのです。
とてもではありませんが、『こどもが主役になれるまち』なんて市長のキャッチコピーとはかけ離れているのが横須賀の現状です。
これまでのあまりにも脆弱な『こども家庭福祉』の在り方について、市長には猛省を求めます。
イメージ戦略だけ、キャッチコピーだけの『こどもが主役になれるまち』を、本当の意味で実現すべきです。
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3万筆もの署名を集めて下さったみなさま、おつかれさまでした。
そして今日この瞬間も学童クラブでこどもたちの健やかな成長の為に尽力して下さっている指導員のみなさま、ありがとうございます。
これからもみなさまがこどもたちの健やかな成長を全力で支援できるように、市議会としても全力を尽くしていきます!