不妊は特別なことではありませんが、わが国では当事者は無理解に苦しめられています
わが国ではカップルの5組に1組が不妊に悩んでいます。
また、2013年に生まれた子どもの24人に1人が生殖補助医療(以下、ARTと略します)のおかげで生まれました。
今の小学校のクラスは25〜30人程なので、クラスに1人は顕微授精などのおかげで妊娠・出産に至ることができた生徒がいる訳です。
すでに不妊は国民全体のテーマなのです。
それなのに、専門的な医療体制も、相談支援も極めて不足している現状があります。
さらに当事者の方々は悩みを周りに相談することもできず、行政に声をあげることもできず、世間からは『存在しないもの』として扱われています。
不育症についても、流産・死産を体験した方々についても、状況は同じです。
●
これまでもフジノは妊娠にまつわる様々なテーマについて取り組んできました。
今年2018年6月議会の一般質問では、横須賀市が2019年度にスタートする『不妊・不育専門相談センター』の在り方について様々な角度から提案を行ないました。
ただ現時点ではまだ、横須賀には専門的な相談支援機関が存在していません。
不妊治療には、治療そのものの苦しみに加えて、様々な苦しみがあります。
「眠れない」「食欲がない」「体重がすごく減ったor増えた」「外に出ると不安が高まるようになった」「消えてしまいたい」
などのうつ症状から、やがてうつ病に罹患してしまう方々もおられます。
思い切ってカウンセラーに相談をしてみても、逆に傷つけられてしまうことがあります。
生殖心理カウンセラーではない一般の臨床心理士に相談したことで、不妊カウンセリングの専門知識や経験が無い為に、的はずれなアドバイスを受けてよけいに苦しくなってしまうことがあります。
そこで横須賀市では、年1〜2回とわずかな回数ではありますが、生殖補助医療の専門家を招いて講演会を開催してきました。
不妊治療に対する正確な知識や情報を提供するとともに、参加者の方からのご相談を受けています。
今年2018年度は、今日がその講演会でした。
約20名の方が参加して下さいました。ありがとうございます。
生殖心理カウンセラー歴20年、わが国の第一人者が講演にいらして下さいました
講師として、わが国の生殖心理カウンセラーの第一人者・平山史郎さん(東京HARTクリニック)をお招きしました。
テーマは『妊活中の心理とストレスとの付き合い方』です。
聞き慣れない『妊活』という単語について、ひとこと説明します。
『不妊治療』という単語があまりにもダイレクトすぎるということから、もっぱら『妊活』という単語が使われるようになりました。
基本的には『不妊治療』≒『妊活』です。
したがいまして、今日の講演のタイトルも『不妊治療中の心理とストレスとの付き合い方』と置き換えて読んで下さい。
- 不妊とはどのような体験なのか
- 不妊との付き合い方について
- 自分を大切にする
わが国には明確な基準が無い為に、
「不妊症治療をやっている」
と名乗っているクリニックや病院がたくさんあります。
しかし正直なところ、その『医療の質』はピンからキリまであるとフジノは受け止めています。
日本の不妊治療の施設数は、世界第1位です。
例えば、体外受精をしている施設は600ヶ所あります。
一方、アメリカ(日本の人口の2.5倍)では、体外受精をしている施設は400ヶ所しかありません。
日本の施設は数が多いのですが、本当に高度な生殖補助医療を実施できているところは多く無いとフジノは感じています。
例えば、横須賀市内にも人工授精を行なっている病院があります。
けれどもフジノが学んできた知識からすると、その病院の実施している方法ではまず妊娠できる人はほとんどいないだろうなと感じます。
(たぶんその病院で妊娠することができた方はもともとその病院に行かなくても妊娠することができた方なのだと思います)
これと同じ理屈で、この国には『不妊カウンセラー』を名乗っている人はたくさんいます。
けれども、本当の専門家は極めて少ない、という印象をフジノは強く持っています。
妊娠や不妊のメカニズムをしっかりと学び、かつ臨床心理学とカウンセリングの技法を学んだ上で、生殖心理カウンセリングを専門とする人は極めて少ないのが現状です。
そんな中、平山さんは不妊症治療を専門としているクリニックで20年以上カウンセリングをしてこられました。
まさにわが国の第一人者といっても過言ではないと思います。
フジノは講演のメモを詳細に取ったのですが、ここには記さないことにしました。
できれば平山史郎さんのお話は、最後に紹介する著作をぜひご覧頂きたいと思います。
さらに、もしも可能であれば、実際に『東京HARTクリニック』でカウンセリングを受けていただけたらより良いのではないか、と感じました。
「不妊治療初期から卒業を見据えた支援を」「里親・養子縁組制度の早期からの周知を」について意見交換していただきました
講演会が終わった後、平山史郎さんとお話するお時間をいただくことができました。
大急ぎで自己紹介をして、平山さんと同じく臨床心理学を専攻したこと、精神保健福祉士資格を持つこと、不妊症・不育症治療への支援をはじめ、流産・死産へのグリーフケアや、極低出生体重児・NICU・ハイリスク児のフォローアップなどを政策的に取り組んできたことをお伝えしました。
その上で、この1年半、フジノが取り組んできた2大テーマについて、ご意見を伺いました。
- 不妊症治療をスタートした初期の段階で、治療からの卒業を見据えた支援を行なっていきたい
- 不妊症治療をスタートした初期の段階から、里親・養子縁組制度について周知していきたい
この取り組みを実行していくことが、当事者のみなさまにとって、簡単には受け入れ難いセンシティブなものであることは十分に承知しております。
それでも、不妊症治療を体験した方々のお話を伺ってきた結果として、やはり取り組みを進めるべきなのだとフジノは決心しました。
そこで議会でも本会議や委員会の場で提案を繰り返しているのですが、まだまだ行政側からの前向きな答弁はありません。
センシティブなテーマではあるけれどもとても大切なこのテーマについて、平山さんがどのようにお考えか、そして今後どうしていくべきかのアドバイスを頂きました。
今後の取り組みにぜひ活かしていきたいです。
平山史郎さん、本日はお忙しい中、横須賀での講演をありがとうございました!
平山史郎さんの著書を紹介します
平山史郎さんの著作で、最もおすすめなのがこちらの本です。
『妊活に疲れたら、開く本〜妊活ストレスに悩むあなたに〜』、主婦の友社、2017年。
他の著作は専門的な内容が多いのですが、本書はタイトルのとおりで、当事者の方の為にわかりやすく書かれたとても良い本だと感じました。
今日の講演のエッセンスも記されています。
とてもオススメです。
来年度ついに「不妊・不育専門相談センター」がスタートします
今年2018年6月議会の一般質問でのやりとりの通りで、来年2019年度から『不妊・不育専門相談センター』がついに横須賀市にも設置されます。
『センター』という名前ではありますが、新たな建物ができる訳ではありません。
あくまでも、こども育成部の中にセンター機能を持つだけです。財政が厳しい中で、専任の職員が確保できるのかは分かりません(兼任の可能性が高いです)。
それでも、高度な生殖補助医療を実施している専門の医療機関が存在しない横須賀市に暮らすみなさまにとって、大きな朗報だとフジノは考えています。
不妊の悩みに気づいた時、遠く市外の専門医療機関に通うのはハードルが高いです。
来年度から、まずは横須賀市のセンターで電話やメールで相談ができるようになれば、今よりはハードルが下がるはずです。
こどもを持ちたいと願う方々の想いに、市として寄り添えるようにぜひなりたいと願っています。
●
今まさに来年度予算案をつくる作業が市役所の各部局では行なわれています。
フジノとしては、新たなセンターの機能がより充実したものになるように、しっかりと働きかけていきます。
全力を尽くしますので、どうか注目していて下さいね。