「HTLV-1母子感染対策研修会」が開催されました
本日、横須賀市の主催で『HTLV-1母子感染対策研修会』が開催されました。
研修の対象者は、母子保健に日頃従事している横須賀市健康福祉センターなどの保健師さん・助産師さんたちです。
きっとあなたにとって『HTLV-1』も『母子感染』も聞き慣れない単語だろうなと思います。
『HTLV-1』とは、ウイルスの名前です。
『母子感染』とは、妊娠中のお母さんから細菌やウイルスがお腹の中の赤ちゃんに感染してしまうことです。
当事者のみなさんの活動のおかげで、2010年から妊婦健診の血液検査項目にHTLV-1も組み込まれました。
そのおかげで今では妊婦健診でウイルスに感染しているかどうか(キャリアか否か)が分かるようになりました。
HTLV-1は主に母乳を通じて母親から赤ちゃんへ感染してしまうウイルスです。
その為、HTLV-1キャリアママは『母乳』ではなくて『人工栄養』(粉ミルクなど)で赤ちゃんを育てることが推奨されています。
一方、母乳神話の強いこの国では、自らの母乳をあげることができないキャリアママは本当に苦しい想いをしています。
だからこそ、妊娠・出産・産後の子育てに深く関わる保健師さん・助産師さんの正確な情報提供や心理的なサポートがとても重要なのです。
そんな想いからフジノが提案して、横須賀市では2011年から定期的にHTLV-1母子感染対策の研修を開催してきました。
こうした取り組みは全国的に珍しく、横須賀市のHTLV-1対策はとても評価していただいています。
講師として石母田衆さんをお招きした理由
さて、今回の研修の最大のポイントは講師です!
石母田衆さん(全国HAM患者友の会「アトムの会」代表)を講師としてお招きすることができたのです!
これまでの研修では、医師や研究者の方に講師をお願いしてきました。
みなさん、素晴らしい方々ばかりです。
でもフジノは、実際にHAMやATLを発症した当事者の方やHTLV-1キャリアママの切実な声をぜひ研修の場でみなさんにお聞きしてほしかったのです。
母乳神話と世間の無理解に苦しめられているキャリアママの悲しみや苦しみもとてもつらいものがありますが、実際にHTLV-1に感染してしまい、さらに発症してしまった時の壮絶さを知っていただけたならば、キャリアママたちは人工栄養で赤ちゃんを育てていくことをきっと決意して下さるはずとフジノは信じています。
その為にも研修の講師に、ぜひ当事者の方をお招きしたかったのです。
そこでフジノは2018年9月議会で提案したのですが、ついに今日の研修で実現しました。
(実際に提案をした委員会での質疑と答弁の該当部分をブログの最後に載せておきますね)
石母田衆さんはHAMの当事者であると同時に、弟さんをATLによって亡くされているご家族の立場でもあります。
まだ小さなお子さんを遺して弟さんが亡くなった時のお話をフジノは涙なしには聴くことができません。
さらに完治する為の薬は今もなお開発されていない中で、石母田さんご自身のHAMとの闘病の日々のお話は胸を打たれます。
研修では、これまでたくさんのキャリアママの生の声をお聴きしてこられた石母田さんから、ママたちの声も伝えられました。
すでに横須賀市の母子保健に関わる保健師さん・助産師さんたちは、キャリアママに対して完全人工栄養の勧奨を徹底して下さっています。
それでも改めて石母田さんから生の声をお聴きすることで、より一層この取り組みの持つ意味を感じていただけたと思います。
(フジノ個人の願いとしては、欧米のようにわが国においても各都道府県に1か所くらいずつ母乳バンクが当たり前に設置されるようになることが理想です。人工栄養だけでなく、提供していただいたドナーミルクを赤ちゃんにのませてあげることができたならば理想的なのに、といつも感じています)
●
本日参加してくれた保健師さん・助産師さん、ありがとうございました。
主催してくれたこども健康課のみなさん、ありがとうございました。
そして講師として遠方から横須賀まで起こし下さった石母田さんご夫妻に心から感謝しています。ありがとうございました!
我が国が総合対策をスタートさせたのは石母田さんたちのおかげなのです
石母田さんについてぜひみなさまに知ってほしいのです。
実は、我が国のHTLV-1総合対策が2010年にスタートしたのも、石母田さんが国に対して働きかけ続けて下さったおかげなのです。
HAMの症状はとてもつらいです。
それでも病身をおして数百名の国会議員を訪れては、HTLVとその対策の必要性について語って回られたのでした。
決定打となったのは、2010年9月8日、菅直人総理(民主党政権)との面談でした。
HTLV-1患者団体が一同に介して(『日本からHTLVウイルスをなくす会』の菅付加代子代表、『はむるの会』の石母田衆理事、『長崎・佐賀HAM患者会ひまわり』の西次夫代表)、総理官邸に総合対策を求めました。
ATLを発症して治療中の浅野史郎さん、山野嘉久先生(聖マリアンナ医科大学)も同行しました。
政府の側も、菅直人総理大臣をはじめ、官房長官、官房副長官2人、総理大臣補佐官らが面会しました。
みなさんのお話を聴いた菅直人総理はHTLV-1対策を放置してきたことを「政府として反省する」と述べました。
有言実行でその直後の10月5日からは首相補佐官をトップとする特命チームを立ち上げて、12月20日まで4回の会合を行ないました。こうして総合対策が打ち出されたのです。
ブログのはじめに記した、妊婦検査にHTLV-1が検査項目に含まれたのもこの成果の1つです。
●
フジノが石母田さんと初めてお会いしたのは、2011年6月4日でした。
フジノの心の師匠である浅野史郎さんがATLを発症したことをきっかけに、フジノはHTLV-1撲滅を心に誓いました。
我が国のHTLV-1臨床と研究の第一人者である山野先生のもとを訪れたフジノは
「どうかひとりでも多くの当事者の方にお会いさせてほしいのです」
とお願いしました。
そしてご紹介していただいたのが、当事者会である『はむるの会』(現在はNPO法人スマイルリボンと統合)でした。
代表の山越里子さん、理事の石母田衆さん(石母田さんは『アトムの会』の活動も続けておられました)のおふたりは、総会の後も2時間もお話を聴かせて下さいました。
それからフジノは『はむるの会』に毎月通いました。
『日本HTLV-1学会』や国が主催する『HTLV-1対策推進協議会』にも参加しました。
そのたびに、石母田さんご夫妻はフジノのHTLV-1に対する取り組みについてアドバイスをして下さいました。
初対面から8年後に、まさか横須賀市にお招きして講師をしていただけることになるとは・・・。
人生とは本当に不思議なものだと思いました。
11月10日は「世界HTLVデー」です
ところで昨年2018年に正式に『世界HTLVデー』が定められました。
昨年に続いて、今年もイベントが開催されます。
ぜひご関心のある方はご参加下さい!
詳しくはこちらをご覧下さいね。
フジノが行なった委員会での提案
今日、講師としてHTLV-1当事者である石母田さんをお招きするきっかけとなったフジノの委員会質疑を掲載しますね。
フジノの質問
まず、HTLV-1の母子感染対策研修会の講師に、実際にATLやHAMを発症した方や発症した方の親御さんをお招きする必要性について伺います。
全国にHTLV-1のキャリア、ウイルスに感染しておられる方は100万人いらっしゃいます。
そのうち母子感染が6割以上となっています。
本市では、HTLV-1の母子感染を予防する為に、神奈川県内では初めて2011年10月に第1回の母子感染予防対策研修を開催してきました。以降、定期的に開催してきて下さっています。
ところで、先日開催されました『日本HTLV-1学会学術集会』に参加したのですが、その際にATLやHAMを発症された当事者の方々からも、横須賀市の取り組みが全国的に見ても極めて先進的であることを高く評価していただきました。
こうした研修は、全国でもほとんど開催されていない現実があります。
そうした中、当事者の方から「さらに横須賀市の研修をより良いものにする為に」という御提案をいただきましたので、改めて僕からも提案させて下さい。
これまで本市が講師としてお招きしてきたのは、医療関係者の方ばかりでした。
ぜひ今後はHAMやATLを実際に発症した当事者の方や、お子さんが発症してしまったキャリアママの方を講師としてお招きすべきではないかという御提案です。
現在、HTLV-1の母子感染を防ぐ唯一の方法は、母乳ではなくて完全人工栄養しかありません。
けれども、我が国には根強く残っている母乳神話によって、多くのキャリアママは苦しめられており、完全人工栄養に踏み切ることができない方々がとても多い現状があります。
また、周囲のハラスメントに近い無理解によって、母乳でなければならないと責められているとも感じるという御意見が多数ありました。
けれども、実際にATLを発症すれば激しい症状が起こって、僕の出会った方もそうですが、あっという間に亡くなってしまいます。
また御自身のお子さんがATLを発症してしまった親御さんは、皆自分が母子感染させてしまったことをすさまじく後悔して「乳幼児期のほんの一時期に母乳をあげなければ感染させなくて済んだのに」と本当に後悔されておられます。
こうした当事者や当事者のお母さんのお声をお聞きすれば、なぜ完全人工栄養でなければならないのかというのが、医療関係者の理論や研究に基づいたお話とはまた別に、リアルな現実の体験談として心に深く刻まれるはずだと信じています。
したがいまして、今後本市が開催するHTLV-1母子感染対策研修においては、医療関係者だけではなくて、どうか当事者や当事者の方のお母さんをお招きいただいて、実際の体験をお話ししていただくべきではないでしょうか、お答えください。
こども健康課長の答弁
HTLV-1の医療というのは、やはり日進月歩でして、専門医の方のお話を聞くことも大変重要ではあります。
ただ、今委員がおっしゃいましたように、当事者の方の話を伺うというのは、どうしてこの事業を行なう必要があるのか、徹底して行なう必要があるのかといったところを、根っこから意義づけていく大切なものだとは私も思います。
今年度につきましては、11月にもう講師の依頼をしてしまっておりますので(2018年度は山野嘉久先生)、来年度(2019年度)に向けては、当事者の方またどんな方に来ていただけるのか、これからになりますが、相談させていただければと思います。
よろしくお願いいたします。
フジノの質問
今年も11月に開催していただけるということ、それから来年度以降ぜひ検討していただけるということで、ぜひ進めていただけたらと思います。
以上です。