「議案59~62、64~67、69、70、74号」への反対討論の全文
藤野英明です。
議案第59号~62号、64号~67号、69~70号および74号までの11件に一括して反対する立場から、討論を行ないます。
これらの議案は、今年7月から2年間にわたって、医療職を除く本市の全職員3,687人の給与を平均2.7%カットするものです。
管理職は月額4%、その他の職員は2.5%をカットすることにより、削減総額は2年間で9億7,364万円を見込んでいるとのことです。
「福祉のまち、よこすか」の実現をめざす立場から僕は、保健・医療・福祉の為の財源を生み出す為にも財政の健全化が不可欠だと信じていますので、行財政改革そのものには賛成です。
しかし、蒲谷市長のめざす「元気なよこすか」を進めていく上で、市の職員のみなさんは、まさに市民のみなさんの為に毎日全身全霊をかけて働いて下さっている。
その給与をカットするよりも、まず先にカットすべき事業が明らかに存在します。
それを実行せずにおいて、市職員の給与カットというのは論外です。「元気なよこすか」を後退させかねません。
現在、世間の公務員バッシングや逆風が激しい中、給与カットの提案は、とても市民ウケが良いでしょう。
けれども、この給与カットがもたらすメリットとデメリットを総合的に考えると、僕は決して賛成できません。
メリットはわずか2つ
メリットはわずかに2つだけです。
- 2年間で9億7,364万円の削減総額が得られるということ
- 市役所も給与カットをして痛みを共有していますよというアピールになること
この2点だけです。
デミリットは複数ある
一方、デメリットは複数想定されます。
ここでは2つの観点からデメリットを申し上げます。
第1に「経営の観点」からデメリットがある
まず第1に、「経営」の観点からです。
市長とは、市職員という約4,000人からなる社員を擁する横須賀市役所という大企業を経営する社長、つまり経営者であります。
経営者としての市長はこの給与カットがもたらすデメリットをどのようにお考えになったでしょうか。
経営学の世界では、いつの時代においても「人的資源管理」(ヒューマンリソースマネジメントと言います)が大きなテーマです。
「人的資源管理」には「雇用管理」「能力開発」「作業条件管理」などいくつもの側面がありますが、それらの中でも「賃金管理」は特に重要です。
仕事へのモチベーションを維持・向上させる為に組織が行なうべきインセンティブシステムは多岐に渡ります。
企業が提供できるインセンティブは、給与、対外的な社会的評価、スキルアップの為の研修、組織内での役職による位置づけ、企業の理念、個人の自己実現、などがありますが
1日の大半を職場で過ごすことになる労働者にとって、「賃金」というのは、自らの仕事の内容に対する誇りを裏打ちする非常に大事な要素です。
また、現在の公務員に対する逆風の中、公務員に対する社会的評価は非常に厳しいものがあります。
そこで、賃金に手をつける、つまりカットする、ダウンするという方法は労働者としての市職員に大きなモチベーションダウンを生み出します。
さらに例えば、賃金に魅力が感じられなければ、新しく職員を採用しようと募集をかけても応募が減ってしまう、優秀な人材が集まらないということが起こります。
雇用管理における採用にも影響が出るなど賃金がいかにあるべきかという「賃金管理」は経営上、とても重要なのです。
しかし、今回の2年間だけのカットという政策には「これをガマンしてくれたら財政回復を達成できる、だからそのときまで耐えてくれ」という約束がありません。
2年間で9億7,364万円の削減、つまり市にとってはプラスになるのですが、かたや僕たちが建設反対運動を行なった横須賀美術館の運営費用の赤字額は年間で約3億円以上にのぼる見込みです。
つまり、市職員の給与カットを2年間も行なっても、そんなものは美術館の赤字をたった3年穴埋めするだけに過ぎないのです。
美術館から提出された資料によると平成19年度の観覧料収入は目標の177.74%に達成したと華々しく書かれていましたが、
先日の教育経済常任委員会の質疑にて僕が
「それでは経済効果はどれだけあったのですか」
と質問をすると
「一切把握していない」
との回答でした。
50億円以上投資して運営費用で毎年赤字を出すならば、どれだけその投資に対して経済効果があったのかリターンも分からない。
こうした市の姿勢が現在の財政難を生み出しているのです。
そもそも美術館やソレイユの丘などをはじめとした採算性が低い上に緊急性も低いハコモノを連続して作った財政難のツケを、市職員の給与カットで補うことは非常に問題です。
常任委員会での質疑や、市職員の方々にヒアリングをすると、
「財政難の折、職員一同この給与カットを納得している」
と言います。
また、
「給与カットによってモチベーションが下がりませんか」
と尋ねると
例えば教育委員会であれば、
「こどもの健やかな成長や笑顔を見守れることが最大の報酬であって、給与がさがったとしてもモチベーションは下がらない」
とおっしゃいます。
例えば水道局であれば、
「市民生活のライフラインである水道を毎日安定供給しているという誇りがあるので、モチベーションは下がらない」
とおっしゃいます。
他の部署も同じように言います。
公務員としての仕事にプライドを持って働いている人々が多いのです。
けれども、既に一般質問で福祉人材確保について述べましたが、誇りや信念を持って働いている人々の、誇りに頼って適正でない水準の賃金などで働かせる、というのはまちがっているのです。
プライドを利用して給与カットをするのではなく、むしろ、仕事にみあった、成果にみあった給与を提供するシステムこそ職員のモチベーションを積極的に引き出す仕組みであると僕は考えます。
このように経営の観点から、まず反対をします。
第2に「市職員も市民である」という観点からデメリットがある
第2に、「市職員も市民である」という観点から、給与カットのデメリットを申し上げます。
3,687名の市職員は、市職員であると同時に「市民」でもあります。
市民であるということは、同時に
「生活者」であり、
「納税者」であり、
「消費者」であり、
「家庭」では父であり、母であるのです。
こうした『市民としての市職員』を捉えた時に起こるデメリットを市長はお考えになられたでしょうか。
いくら誇りを持って働いていても「生活者」として仕事を終えて家庭に戻れば、給与ダウンとなれば大きなダメージを家族から指摘されるでしょう。
ローンや支払いの見直しをしたり、家計を切り詰めてやりくりをすることになるでしょう。
また、「納税者」として捉える視点も必要です。
横須賀市の市民税は約21万人が対象者ですが、このうち市職員は2%を占めています。
したがって、今回の2年間の給与カットによって、これはおおよその数字を担当部署に出してもらいましたが、市に入る個人住民税は約3,800万円マイナスになるそうです。
また「消費者」として捉えた場合の影響も大きいでしょう。
かつて横須賀市役所がお昼休みを15分短くした時に、市職員をターゲットに営業していた飲食店は軒並み大きなダメージを受けました。
約3,700名の消費者である市民の収入がさがった分、そのご家族も含めて、購買意欲がさがり、消費に影響が出るのは当然のことです。
しかし、こうした影響について調査をせよとか影響を報告せよという指示を、市長は関係部署に一切行なっていないことが分かりました。
市民生活を守る為に財政健全化を目指しているのですが、市職員も同時に市民なのです。
その市民の暮らしに与えるネガティブな影響をあらかじめお調べになっていないということは市民の代表である市長として、本末転倒といわざるをえません。
すでに市職員はプライベートにおいても例えば、PTAの役員が決まらなければ
「あなたは公務員なんだからやってくださいよ」
と言われたりして断れない。
また、日頃から町内会やボランティアとして休日にも無給でまちづくり活動にプライベートでも取り組んでくれています。
こうした側面をきちんと評価するようなインセンティブシステムが無いような現状では今回の議案ではデメリットの方が大きい、と判断するに至りました。
これが反対の理由です。
市議会自らの給与カットを提案すべきだった
最後になりますが、本来ならば、市長が市職員の給与カットを提案する前に
市議会側が自ら市議会議員の給与カットを提案すべきでした。
財政難で低成長時代の給与の在り方については、市長、市議会議員、市職員と、三位一体で改革すべきだと僕は考えます。
市長をはじめとする特別職は、今年4月から来年6月まで10%カットをすでに実行しています。
行政と議会という二元代表制の、行政側のトップが給与カットをしている以上、この時点で議会側もこれに応じて痛みをわかちあうべきでした。
市長と市職員が給与カットされる中、僕たち市議会議員だけが痛みを感じずに現状維持のままで本当に良いのか、それこそが本当の問題なのではないでしょうか。
3日前の6月15日、自由民主党の伊吹幹事長がNHKの討論番組でこのように述べたそうです。
行政のムダを無くす取り組みの一環としてまず政治家が身を正し、各党の協議で定数を削減したらいい。地方議員も削減したらいい。
つまり、地方議会も含めた議員定数の削減を提案したのです。
日頃、自民党とは意見を異にすることが多いのですがこの提案には賛成です。
議員定数をさらに減らすことで、支出をカットするのも良いでしょう。
いずれにしても、美術館の3年間の運営赤字を穴埋めするだけで終わるようなそんな給与カットでは本質的な財政健全化には結びつきません。
一時的な対応ではなく、
「財政難で低成長の時代の政治・行政の給与の在り方はいかにあるべきか」
を改めて議論すべきだと僕は考えます。
先輩議員・同僚議員のみなさまにおかれましてはこうした抜本的かつ根本的な対応こそが不可欠であるとの考えにご共感いただいて、これらの議案にはどうか反対していただけますようお願い申し上げます。
以上で、反対討論を終わります。
ありがとうございました。
フジノの反対討論もむなしく、議会の多数派によって可決されてしまいました。