「横須賀市いじめ等の対策に関する条例制定」への不備がある為に反対の立場から討論をしました
藤野英明です。
議案第52号「横須賀市いじめ等の対策に関する条例制定」について、反対の立場から討論を行ないます。
【基本的立場】
そもそも僕は、いじめを撲滅すべきだと考えています。
国会で成立し昨年9月に施行された『いじめ防止対策推進法』に明記されているとおり、
いじめはどこの学校のどの児童生徒にも起こりうるもの、との認識に立ち、
いじめは児童生徒のかかえがえのない尊厳を害するものであり、その生命及び尊厳を保持する為に、適切かつ最大限の未然防止・早期発見・起きてしまった際の事案対処をわが国の全ての学校や地域で実現し確保しなければなりません。
つまり、いじめ防止は全国民の共通の願いです。
【本条例案に反対する理由】
しかし、今回、市長から提出された議案第52号には、反対せざるをえない理由が2つあります。
第1に条例全体の骨格の問題から、第2に個別の条文に対する修正の必要性からです。
【条例全体の骨格の問題】
まず第1に、条例全体の骨格の問題です。
国が策定した『いじめ防止対策推進法』では、法律が扱っている対象は『いじめ』そのもののみです。
何故ならば、いじめの構造的な問題をはじめ、いじめを防止する為の基本的な施策や、事案対処の通則、さらに重大事態対処の特則など
いじめとは極めて深刻な問題で、この1つに限定して真正面から取り組まねばならない重大な事柄だからです。
一方、本市の議案第52号では、そもそも条例の名前が『いじめ等の対策』と謳っているように、いじめだけがターゲットの条例ではありません。
- いじめの防止
- 体罰の根絶
- 学校問題の解決
この3つを目的とした条例となっています。
市民のみなさまに馴染みのない『学校問題』という言葉は、教職員の方々や教育委員会では日常的に使われている表現で、学校運営上、多くの支障をきたしている問題のことです。
いじめの防止だけでも国家的な重大事項であるのに、本市の『いじめ等の対策条例』では、3つの問題を1つの条例に押し込めた根本的に無理な構成になっています。
僕は今年こそ所属はしていませんが、これまで教育福祉常任委員会に所属してきましたので、条例を策定する背景から現在に至るまでに立ち会ってきました。
教育委員会の部課長、前教育長との質疑を通して、教職員による体罰がいまだ無くならない現実、地域全体が一体となって解決すべき学校問題も多発している現実、それらへの危機感はよく分かりました。
しかし、危機感は共有しますが、いじめはそれらの課題の中でも最重要の課題として単独の条例で取り組むべきなのです。
【複数の議員からの疑問に教育委員会は答えていない】
この点については、過去の教育福祉常任委員会において、上地克明議員、はまのまさひろ議員をはじめ多くの委員の方々から
体罰と学校問題をこの条例に入れてはならない、それぞれの課題ごとに分けた複数の条例にすべきだ、そして、いじめ防止対策だけを対象にした条例にすべきだと繰り返し問題提起がなされてきました。
それに対して学校教育部長は「問題提起を受けて検討させていただければ」と答弁してきましたが
本定例会においても何故このように3つの問題を1つの条例に押し込めねばならないのか、納得できる合理的な説明はありませんでした。
(目的が極めてあいまいになってしまっている)
今回、議案第52号は3つの問題を1本の条例に押し込めた為に目的があいまいになっています。
第1条(目的)では
この条例は子どもが安心して学び、健やかな成長を実現する環境づくりを推進することにより、横須賀の全てのこどもたちが明るい笑顔で楽しく充実した学校生活が遅れることを目指し明るく住み良い社会を実現することを目的とする
とあります。
「明るく住み良い社会を実現すること」が『いじめ防止条例』の目的を記した条文としてふさわしいとは僕には思えません。
一方で国の『いじめ防止対策推進法』の第1条では、このようにはっきりといじめとの闘いを謳っています。
第1条(目的)
この法律は、いじめが、いじめを受けた児童などの教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長および人格の形成に重大な影響を与えるのみならずその生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるものであることに鑑み、児童等の尊厳を保持するため、
いじめの防止などのための対策に関し、基本理念を定め、国及び地方公共団体等の責務を明らかにし並びにいじめの防止等のための対策に関する基本的な方針の策定について定めるとともに、
いじめの防止等のための対策の基本となる事項を定めることにより、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的とする
国が目指す『いじめ防止対策推進法』は、これまでも学校や地域や政治行政が必死に取り組んできたにもかかわらず、それでも滋賀県大津市のいじめ自殺事件をはじめとする悲惨な事件が繰り返されてきたことの反省に立っています。
国の法律のこの目的と比べると、いかに本市の条例案の目的があいまいであるかお分かり頂けたと思うのです。
【3つの条例にすべき】
いじめ、体罰、学校問題は、どの問題をとっても簡単に解決できるような問題ではありません。
『いじめ防止条例』『体罰根絶条例』『学校問題防止条例』の3つでは何故ダメなのでしょうか。
『体罰根絶条例』という名前の条例を作れば、いっこうに無くならない体罰の存在を前面に打ち出すことで現場の教職員の方々からの反発が起こるのでしょうか。
『学校問題防止条例』という名前の条例を作れば、現実に今、学校に問題が多数存在していることが世間に広く知られてしまうようで嫌なのでしょうか。
改めて今回の議案第52号には、根本的に条例全体の骨格に問題があります。
いじめ防止対策を推進することに全力を傾注する単独の条例と、体罰の根絶・学校問題の解決を目指した別の条例とに分けた上で、改めて市長・教育長は提案し直すべきです。
【個別の条文に対する修正の必要性】
反対する第2の理由は、個別の条文に対する修正の必要性からです。
すでにみなさまがご存知のとおり、本定例会の教育福祉常任委員会において審議が1時間にわたってストップするという出来事がありました。
その理由は、はまのまさひろ議員の質疑における第19条(財政的措置等)の条文の問題です。
第19条では
市は、子どもの健やかな成長を実現する環境づくりの推進にあたっては、必要な財政的支援をするよう努めるものとする
と記しています。
つまり、
- 財政措置はあくまでも努力義務にすぎない
- 財政的な措置は市長が無理だと判断したらしなくても仕方がない
というような条文なのです。
一方、第5条(学校の責務)では
学校は、学校全体でいじめの防止等、体罰の根絶および学校問題の解決に取り組まなければならない
と記して、学校に対しては義務を課しています。
これまでもいじめの解決の為に学校では現場の教職員のみなさんが必死になって努力をなされてきた。
にも係わらずいじめ防止を実現できないことから今回、市はこのような条例を策定するに至ったはずです。
それなのに、学校には義務を課しておきながら、本来、現場の教職員と学校を全力で支援すべき市が財政的な支援はその時々の財政状況でしなくても良いという責任逃れの姿勢なのです。
これでは条例を作っても、再び学校現場を孤立させるだけではないでしょうか。
【正論を述べた2人が発言を撤回したのはおかしい】
はまの議員の質疑を受けて、その想いと熱意にこころを動かされたのか教育長は答弁において
「修正については市長と相談したいと思います」
と述べました。
教育長は今季から新たに就任し教育行政は未経験であるとはいえ、もともとは筋金入りのベテラン行政パーソンです。
市民安全部長として議会対応もずっと行なってきました。
ですから、1度市議会に提出された議案を「修正について市長と相談したい」と答弁するということのその『重み』は理解しておられたことと僕は思います。
はまの議員の真摯な質問に対して、教育長は今回の条例案が
「確かにおかしい」
と感じたからこそ、あのような答弁を述べられたのだと僕は感じました。僕も、はまの議員と教育長の姿勢には心を打たれました。
そして議案は1度撤回されて、改めて教育委員会が招集されて議論がなされた上で再び市議会に再提案されるものだと思いました。
しかし、1時間あまりの審議ストップの後、再開された教育福祉常任委員会でははまの議員は発言を撤回されました。
そして、教育長も同じく原案どおりでいくとしました。
何故、正論を述べた2人が何故その言葉を撤回しなければならなかったのでしょうか。
過去の古い横須賀市議会では、市長の原案はそのまま可決されるのが当たり前でした。
けれども、今の新しい横須賀市議会は、全国でも改革が進んだ議会です。
市長の原案では弱い、こどもたちを守りきれない、学校現場だけに義務を課しておきながら市は財政的な支援を義務ではなく努力義務で逃げている。
こうした条例案に接した時に、今の横須賀市議会ならば、議案の撤回を市長に求めて、そして本当に目指している条例の目的が実現されるような条例案に改めさせることができるはずです。
今回、教育福祉常任委員会のみなさまは条例の文章を修正することよりも原案のまま成立させることを優先させたのは、苦しみの中にあるこどもたちを一刻も早く守りたいとのご判断があったことと思います。
そのような判断も同じ政治家として敬意をもって受け止めています。
それでも僕は、今回の議案を撤回し、教育委員会での議論を経て再び提案をして市議会を開催しても要する期間は1ヶ月ほどしかかからなかったのではないかと考えています。
そうした判断から僕は、問題のある個別の条文をやはり修正すべきで、そのことがこどもたちを守りたいという条例の目的にはより良い結果をもたらすのではないかと考えています。
【おわりに】
以上のように、2つの理由、
第1に条例そのものの骨格の問題から、
第2に条例の個別条文の修正の必要性から
議案第52号に反対します。
先輩・同僚議員のみなさまにおかれましてはどうかご理解いただけますようお願いを申し上げまして、僕の反対討論を終わります。