横須賀市一般会計補正予算に反対する討論
藤野英明です。
議案第71号・平成27年度横須賀市一般会計補正予算に、反対の立場から討論を行ないます。
本議案において、文化行政推進事業費として『戦艦陸奥の主砲』移転事業が計上されています。
- 移転に伴う土質調査委託260万円
- 前面海域の深浅測量委託300万円
- 設置にかかる基本設計委託120万円
の計680万円です。
この戦艦陸奥は、竣工当時、世界にわずか7隻しか存在しなかった40センチ砲搭載艦として、『世界七大戦艦』と呼ばれました。
戦艦長門とともに戦前の日本国民に深く愛された戦艦です。
個人的な話で恐縮ですが、僕の祖父は海軍で、戦艦長門に一時期乗っていたこともあり、幼い頃、戦艦陸奥についても聴かせてもらい、なじみがあります。
今回移転されるこの主砲は、レプリカなどではなく、横須賀海軍工廠で建造された現物そのもので極めて貴重です。
本籍こそ佐世保鎮守府であるものの、横須賀海軍工廠で建造されたという深い歴史的な関わりからも、本市が今後建設予定の『軍港資料館』において重要な役割を持つ展示となると僕は期待しています。
何故ならば、先ほど申し上げた通り戦前の国民に深く愛されてきた陸奥ですが、実は戦闘行為の最中ではなく、原因不明の爆発によって瀬戸内海で1221名の尊い命と共にあっけなく沈没しました。
「あの世界七大戦艦・陸奥が戦わずして爆沈した」
という最悪のニュースを軍部は国民に隠しました。
死亡した乗組員の家族には給料の送金を続けるなどをし、国民は戦後になるまで事実そのものを知らされませんでした。
これは大切な人々の命があっけなく失われる戦争の虚しさをまさに象徴的に表している歴史的事実です。
2度と繰り返してはならない戦争について学び、平和を希求する為に作られる本市の『軍港資料館』にとって、必ず象徴的な大切な展示の1つになると僕は深く信じています。
ですから、僕は主砲の移転そのものには積極的に賛成しています。
しかし、3つの理由から僕は今回の補正予算案に反対です。
第1に、今後の維持管理費の見積もりをしていないこと、
第2に、委員会での説明では
「今後の経費圧縮の為に国の防衛補助(防衛8条)を申請し獲得に向けた調整をする」
と繰り返しまるで市民の税金を使わないかのように説明していること、
第3に、今後本市が設置すべき『軍港資料館』そのものの見通しが不明であり、この主砲に関しても本市の熱意は感じられず、単に間に合わせで移転するとしか感じられないからです。
これでは市民のみなさまに対して十分に説明が果たせないことから反対します。
議員のみなさまはすでにご承知のことではありますが、この戦艦陸奥の主砲は、現在、『船の科学館』に展示されております。
しかし、東京オリンピックパラリンピックの開催に伴い、『船の科学館』周辺は再開発されることから、戦艦陸奥の主砲も移転あるいは処分されてしまう可能性があります。
陸奥の沈没とともに亡くなられた1221名の鎮魂への想いとその歴史的な価値を鑑みれば処分などすべきではなく、この機会に深いゆかりのある本市へ里帰りさせようと、有志のみなさんによって『陸奥の里帰りを支援する会(以下、陸奥の会)』が結成されました。
そしてこれまで署名活動や移転経費を集める募金活動など様々な取り組みを積極的に行なってきてくださいました。大変に意義のあることだと考えています。
こうした「陸奥の会」の活動は大きな共感を集めて、賛同の想いの込められた多くの署名とともにたくさんの寄附も寄せられました。
今回の補正予算で計上された支出680万円の財源は全てこの寄附金が原資となっています。
今後の主砲の海上輸送経費、台座等の設置にかかる工事費用など約4700万円の支出見込みの大半も『陸奥の会』からの寄付金等で賄うことなど、本市の財政面からも大変ありがたいことだと感謝しています。
ただし、移転した後の維持管理は横須賀市が行ないます。
維持管理にかかる費用は寄附ではなく、市民のみなさまの税金によって賄っていかねばなりません。
総務常任委員会での質疑によれば、政策推進部と環境政策部とが意見交換をしている中で、今後の維持管理にかかる費用は塗装費などにとどまり莫大なものにはならないと答弁はあったものの、正確な見積りは出していないとのことでした。
今後市民のみなさまの税金を支出することが明らかであるのに、将来の推計を全く提示しないことは、極めて無責任です。
また、今後発生する移転費用4800万円のうち、『陸奥の会』の寄附で賄いきれない部分があります。
これに関して総務常任委員会では、経費圧縮の為に国の防衛補助(防衛8条)を申請する、つまり市単独の持ち出しは全くないと繰り返し説明・答弁がなされました。
しかし、これまで僕が一般質問などで繰り返し指摘してきたとおり、例え行政区分上、国税、県税、市税と分かれていたとしてもその原資はすべて市民のみなさまが一生懸命に働いて得たお給料からお預かりしている税金に変わりはありません。
市民のみなさまにとって、税金に色はついていないのです。
財源に国の防衛補助を使えるとしても、それは単に市役所にとってのファイナンスの手段に過ぎません。
防衛補助を使う、市の持ち出しは無い、と繰り返される答弁を聞くたびに、事実をごまかしているように聞こえてなりませんでした。
市民のみなさまに対する説明として適切ではありません。
そして最後の反対理由は、どれだけの熱意をもって本市がこの陸奥主砲の里帰りを事業化したのか全く見えなかったからです。
陸奥の主砲の里帰りが実現すれば、来年度は1936年の4番砲搭載から『80年』という節目であり、その歴史を知っていただく大切な好機にあたります。
しかし、今後、市民のみなさまに対して、どのようにこの主砲の歴史的価値やその評価をお伝えするのか、具体的な案はまだありません。
特に『軍港資料館』との一体的な展示方法などは全く無く、現状ではオリンピックによる開発スケジュールに追われて、また「陸奥の会」をはじめとする市民の強い声に押されて、市そのものには哲学や理念が無いままにやむなく移転に踏み切っただけに感じられました。
早急な対応が必要だったとはいえ、計画性が感じられません。
軍港等資料館の設置に対する見通しが建たない中、
本市の歴史上、わが国の歴史上、戦艦陸奥をはじめ、横須賀海軍工廠で建造された数々の物の意義や価値などがどのような存在であったのかをいかに展示していくか、さらには「あの戦争とは何だったのか」を市民のみなさまに啓発していくのかが全く見えません。
本来、全ては一体のものとして扱うべきで、『軍港資料館』の扱いが中途半端なままでは何の為の移転なのかも市民のみなさまに説明することができません。
以上の3点が反対の理由です。
市長と執行部には、
今後の維持管理費の推計を正確に見積もり、
防衛補助を用いようがその原資は市民の税金に変わりはなく説明としては不適切だとの僕の指摘を再考して頂くと共に、
何よりも「軍港資料館」との一体的な展示の在り方など具体的な計画の早期の立案を求めます。
以上をもちまして、本議案への反対討論といたします。
委員会の結論
フジノは反対をしましたが、委員会全体としては賛成多数で可決をしました。