2015年9月10日・予算決算常任委員会での反対討論

横須賀市一般会計補正予算に反対する討論

藤野英明です。

『議案第99号横須賀市一般会計補正予算(第2号)』に反対の討論を行ないます。

反対討論を行なうフジノ
補正予算案中、

  1. 走水低砲台跡活用事業
  2. 創業・経営改善支援事業(ICT関連ビジネス育成事業)
  3. 横須賀リサーチパーク推進事業(オフサイトミーティング推進事業) 

に特に強く反対します。




第1に「走水低砲台跡活用事業」です

「横須賀市内近代化遺産総合専門調査報告書」(2003年3月発行)より

「横須賀市内近代化遺産総合専門調査報告書」(2003年3月発行)より


そもそも「走水低砲台跡」は、その歴史的な意味の大きさから必ず後世に伝えていかねばならないと確信しています。

旗山台場絵図

旗山台場絵図

走水低砲台跡整備・活用事業の平面図

走水低砲台跡整備・活用事業の平面図


しかし、その歳出3126万円の中に「携帯アプリ開発の業務委託」や「タブレットPCの購入」が含まれていることが反対理由です。

環境政策部の議案説明資料より

環境政策部の議案説明資料より


財源は国の交付金ですが、交付を受ける条件の1つに「先駆性」が挙げられ、「他の地方公共団体において参考となる先駆性を有した事業」でなければならない、と財政部は説明資料に記しています。

財政部の議案説明資料より

財政部の議案説明資料より


けれどもみなさまがご存知のとおり、ソフト・ハードともにICT技術は毎日すぐに新しくなり、要するにアプリもタブレットPCもすぐに古臭くなります。

某AR観光アプリ業者のサイトより

某AR観光アプリ業者のサイトより


数年前であれば「ARを用いた観光アプリ」は目を引きましたが、2015年9月の今、「どこでもすでにやっていることを今さらまた横須賀もやるのか」と僕は感じました。

インターネットの検索サイトで、検索ワードに「観光」「アプリ」「開発」と入力すれば、観光アプリ受託企業があふれています。

あえて厳しい言い方をしますが、「地方創生ビジネスがさかんな今、行政の補助金にありつこう」という業者がたくさん居て、どの企業でも、どのまちでも、同じことが行われているのです。

どの企業も売り文句は同じで、こんな感じです。

「AR技術を使った観光ガイドアプリの需要は年々高まっています。ご当地のゆるキャラに観光地ガイドしてもらうものや、GPSで目的地までナビゲート。カメラに浮かび上がるエアタグでお店や観光地の情報を取り出せる感覚的な使用感を実現。

ガイドマップを片手に観光地を巡る時代から、タブレット端末一つで記念撮影からご当地の動画閲覧、GPSナビゲーションが可能な時代になりました。

町おこしや、更なる地域ブランドの認知度アップ、海外からの観光客を含めた誘致を図るには、AR観光アプリが今後のスタンダードになってゆくと確信しています。

あなたの町の観光アプリを作成し、地域の活性化のお手伝いをいたします。」

こうした売り言葉にのせられた挙句、数年後にはどのまちでも古臭くなった観光アプリがあふれていそうです。

横須賀市が発注するARアプリもすぐ時代遅れになり、新しい技術の優位性に市民の目はすぐに移ります。

そのたびに業務委託先は適切な内容に改めてくれるのでしょうか。

むしろ徹底的にやるべきことは「走水低砲台」の意義を適切に伝えられる人材の育成です。

物語性豊かに語れるガイドの育成こそが有効な取り組みであり、こちらにもっと重点的に予算を充てるべきでした。

また、『業務委託』内容の説明も不十分でした。

少なくとも議会が予算を認める大前提として、業務委託内容の具体的かつ明確な説明がなければ、税金の支出を認めることはできません。

したがって歳入として交付金の目的にも合致していませんし、歳出の効果も期待できないことから反対です。




第2に「創業・経営改善支援事業(ICT関連ビジネス育成事業)」についてです。

そもそも僕は、市長が市外の仲良しのみなさんと進めている「ヨコスカバレー構想」そのものを完全に疑問視しています。

ヨコスカバレーのウェブサイトより

ヨコスカバレーのウェブサイトより


「10年間で100億円の資本投下をする」と市長は述べましたが、投資効果が全く予測できない事業に毎年10億円も税を投入すべきではないと僕は考えています。

本来ならばもっと市民の為にこそ交付金は使うべきなのに、今回の補正予算案の中身も残念なものばかりで、税金の無駄遣いに終わるだろうと、大変がっかりしました。

経済部の議案説明資料より

経済部の議案説明資料より


『クラウドソーシングの周知啓発と市民フリーランスの受注拡大』について、所管する総務分科会で質疑がなされました。

「市内にフリーランスがどの程度存在しているか」と問われた経済部長は、「正直どれくらいいるのか分からない」と答弁しました。

どんな事業もやる以上は最低限のデータは事前に概算でも把握しておくべきで、資本投入しても効果がどの程度なのか推計もできないならば、市民のみなさまの大切なお給料からお預かりしている税金を使うことに賛成なんてできません。

また、全国の自治体で「クラウドソーシング」に関する事業を実施するのは本市が初めてだと部長は強調しておられましたが、

これも僕には「今さらわざわざ横須賀市がクラウドソーシングか」と逆の印象しか持ちませんでした。

「クラウドソーシング」を活用したビジネスは欧米やアジアの諸外国ですでに長年にわたり実施されてきました。

そもそもは「全世界の集合知」を活かした事業の発注がブレイクスルーを生むという発想がクラウドソーシングの本来の売りですが、実際には、そのような内容の事業発注は微々たるものです。

現在ではほとんどの発注が、スキマ時間に手があいている人がその時間を使って単純作業に従事することにクラウドを使うだけに過ぎません。

今では弊害もよく見えてきて「デジタル内職」とも言われています。

国内のフリーランスの大半は発注を受ける為にすでに民間企業のサービスに登録していますし、そもそも世界中から仕事を得ている優秀なフリーランスの方々は横須賀市の支援を全く必要としていません。

それにもかかわらずこの「デジタル内職」業界へ、横須賀市がかなりの「後発」であえて参入していく訳です。

部長は答弁の中で「介護をしている人や子育てをしている為にフルタイムでは働けない人に技術を活かして欲しい」と答弁しておられました。

しかし、この事業のターゲットであるそうした方々は、結局は、日本人が日本語で発注をかける事業、しかも得られる収入は少ないがデスクの前で取られる時間は長い、単純労働の小口業務しか受けられないと思います。

この事業の目的は「ICTビジネス関連の創業」ですが、創業やスタートアップとは全く無関係な、単純労働者がまた増えるだけではありませんか。

また、「デジタル内職」の存在を知ってもらう周知の役割は民間企業がやるべきことです。

すでにインターネットや求人情報誌ではさかんに新しい働き方と大げさに宣伝されています。

にもかかわらず、あえて本市が税でやるべきではありません。

国内市場だけを見ても、クラウドソーシング業界には本当に多くの企業が参入しています。

もしクラウドソーシングで働きたければ、今は誰でも業者に、例えば業界最大手「ランサーズ」などの業者に登録すればいい。

業界最大手「ランサーズ」ウェブサイトより

業界最大手「ランサーズ」ウェブサイトより


ビジネスマッチングは「ランサーズ」はじめ多数の業者がすでにやっています。

今さら横須賀市が新たにやれることは特に浮かびません。

結局この事業は、新しく見える物が好きな市長の自己満足の為の事業ではないでしょうか。

しかも896万円も業務委託費として計上していますが、その業務の具体的な中身は総務分科会での質疑を通しても最後まで明確な答弁はありませんでした。

先ほどと同じことを申し上げますが、委託する業務内容の説明があの程度しか得られない中では、市議として市民のみなさまに説明責任を果たすことができません。横須賀市がやるべきではない上に、やっても事業効果が見込めるような説明もなく、反対します。




最後に「横須賀リサーチパーク推進事業(オフサイトミーティング推進事業)」です。

企業が自社ではなく他の場所で合宿のように「オフサイトミーティング」をあえて行なうのは、自社から離れたいつもとは異なる環境でリフレッシュしつつ頭を切り替えることで新たなビジネスモデルの発想が生み出されることを期待してのことです。

市がこれに税金を出すというのは、かみ砕いていえば企業の気分転換のための合宿にお金をわざわざ出してあげるということです。

経済部の議案説明資料より

経済部の議案説明資料より


それにもかかわらず本事業の最終ゴールは、『横須賀リサーチパークに新たに市外企業を誘致すること』です。

繰り返しますが、「オフサイトミーティング」はあくまでも一過性のものであり、自社や事業拠点ではない所で一時的に実施するからこそ意味があるものです。

経済部の議案説明資料より

経済部の議案説明資料より


それを市外企業に税金を使ってYRPでどんどんやらせてあげる訳ですが、その結果、うまくいっても得られる効果は「後日、観光人口を数十人から数百人程度だけ、ごく微かに増やす程度のものだ」と僕は考えています。

それにもかかわらず長期的ゴールを横須賀リサーチパークへの市外企業の誘致に置いていることは、完全に的外れとしか言えません。

市外企業の「オフサイトミーティング」に本市が税金を使うことは地域住民の生活等を緊急に支援するものではありませんし、事業効果があったとしても
横須賀市民の生活を守ることにはつながりません。

したがいまして「横須賀リサーチパーク推進事業(オフサイトミーティング推進事業)」に反対です。


反対討論を行なうフジノ

反対討論を行なうフジノ


「どうやって交付金を使う事業を選ぶのか」という総務分科会での質疑への答えは、全部局に対して、交付金にあてたい事業を提案してもらい、財政部・政策推進部・副市長・市長が会議をして事業を選択したとのことでした。

僕からすると、交付金充当事業に選ばれたのは、「いかにも市長が好きそうなこと」ばかりでした。

つまり、若手ICT起業家たちが集まって熱く語り合ったり、好んで読むビジネス雑誌やサイトで特集されている新しめに見えるビジネス。

そこにわざわざ横須賀がお金を出すんです。

ビジネスをしている友人が僕にもいますが、今回の補正予算やヨコスカバレー構想の感想を尋ねると

一部のメディアでは横須賀はスタートアップ先進都市だともてはやされているので、今回の取り組みもきっと市長は画期的だと自画自賛しておられるのでしょう。

日刊工業新聞社サイトより

日刊工業新聞社サイトより


ただ、そもそも本気の起業家たちは行政にスタートアップ支援なんて期待していないし、横須賀市の取り組みにも特に期待はしていません」

という言葉をもらいました。

市議会では虚偽答弁や不誠実答弁を繰り返す一方で、市外の講演会でこんな内容をペラペラ自慢気に話す吉田市長

市議会では虚偽答弁や不誠実答弁を繰り返す一方で、市外の講演会でこんな内容をペラペラ自慢気に話す吉田市長


また、

「地方自治体では初の取り組みだ、『ゆうじん』すごいね、なんて仲間たちから飲み会で褒められてのせられて、実際はうまく行政が税金をたかられていることに気づいていないだろう」

といった厳しい言葉も頂きました。

市内外からそのように観られていることは僕も以前から感じています。

市長の自己満足や虚栄心を満たすために税が使われるとすれば、このまちの市民は本当に救われない、と虚しく感じます。

最後に申し上げたいのですが、反対しているどの事業も、獲得した財源の目的に全く合致していません。

財源は国の「地域住民生活等緊急支援のための交付金」ですが、横須賀の地域に暮らす市民生活を緊急に支援する為にこそ使うべきものです。

「地域住民生活等緊急支援のための交付金」のメニュー

「地域住民生活等緊急支援のための交付金」のメニュー


交付金の事業メニューを観ると、もっと直接的に市民のみなさまの暮らしを守る事業ができたはずなのにと感じます。

選定において市長が拒否した他の部局が出してきた事業にはきっともっと良い提案があったはずではないかと感じます。

5000万円あれば、もっと市民の暮らしを直接的に支援できる生きた税金の使い道があったはずです。

こうした想いから、以上3事業に対する市税投入は不要との結論であり、その理由をご説明いたしました。

これをもって議案第99号への反対討論とします。



委員会の結論

フジノは反対をしましたが、委員会全体としては賛成多数で可決をしました。



後日談:走水低砲台跡の整備が神奈川新聞で報じられました

2015年9月11日・神奈川新聞より

2015年9月11日・神奈川新聞より


走水低砲台跡そのものの意義は高く、もっともっと市民のみなさまに知っていただきたい存在です。

予算の一部に問題があり反対はしたものの、こうしてその存在が報じられて市民のみなさまに知っていただけることはとてもありがたいです。