自殺未遂と「救急」に関するデータ/藤野英明が行なってきたデータ活用の提案

*2019年7月2日更新:2018年度データを加えました。

自殺・自殺未遂に追い込まれた方々と、『救急』にはとても深い関わりがあります。

まわりの人が気づいて通報してくれたり、苦しさや痛みからご本人が119番をかけて救急に助けを求めることが多々あるからです。

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こうした通報件数・その後の症状の重さなどもデータとして記録されています。

かつては全く顧みられることのなかったこのデータに2003年からフジノは注目し、自殺対策に役立てることができると信じて、毎年の統計を追いかけてきました。

今では、国をはじめ全国の自治体がこうしたデータを自殺対策に役立てるようになりました。



1.救急で搬送された自殺・自殺未遂の方々

第1に注目すべきなのは、119番通報があって救急隊が出動して救命救急センターや病院に搬送された方々についてです。

搬送した際、救急隊はその病院で診察をした医師の判断をその場で聞きます。その結果を確認して『救急報告書』に記しています。

4つの状態に区分されます。

  1. 軽症:入院加療を必要としないもの(搬送・治療・診察をしたら、その日のうちに帰れる方)
  2. 中等症:3週間程度の入院・治療が必要なもの
  3. 重症:それ以上
  4. 死亡



このデータをもとにフジノは下の表を作りました。

軽傷・中等症・重症の3区分を合計して『未遂』としました。

自損行為により搬送された後の状態別人数
死亡 未遂
2002 17人 152人
2003 15人 180人
2004 10人 185人
2005 20人 197人
2006 16人 177人
2007 12人 176人
2008 16人 202人
2009 16人 156人
2010 22人 165人
2011 27人 184人
2012 24人 135人
2013 21人 111人
2014 17人 111人
2015 18人 110人
2016 17人 85人
2017 15人 103人
2018 12人 95人

(消防年報『事故種別年齢区分傷病程度別搬送人員』より一部抜粋し作成。横須賀市民のみ)



2.不搬送となった自殺・自殺未遂の方々

第2に注目すべきデータは、『不搬送』についてです。

通報を受けて救急隊はすぐに現場に駆けつけるのですが、いくつかの理由から、最終的に救急車で病院へと運ばれなかった方々が存在しています。

それを専門用語で『不搬送』と呼んでいます。

その『不搬送』の数を「何故、病院に運ばれなかったのか?」という理由ごとに分けたのが、下の表です。

自損行為における不搬送の理由
死亡 緊急性なし 傷病者なし 拒否・辞退 現場処置 誤報・
いたずら
その他
2002 41人 1人 6人 1人 9人
2003 30人 2人 2人 20人 2人 3人
2004 34人 2人 8人 2人 5人
2005 36人 3人 13人 3人 1人
2006 39人 1人 17人 0人 1人
2007 39人 2人 8人 1人 2人
2008 43人 2人 2人 20人 1人 6人
2009 41人 4人 5人 20人 1人 2人
2010 50人 2人 4人 14人 0人 4人
2011 38人 3人 4人 15人 1人 7人
2012 37人 4人 3人 22人 0人 7人
2013 33人 2人 5人 10人 1人 4人
2014 53人 3人 2人 14人 1人 1人 2人
2015 41人 1人 2人 14人 1人 1人 6人
2016 31人 2人 3人 10人 3人
2017 51人 4人 3人 21人 1人 11人
2018 42人 5人 3人 17人 2人 3人

(消防年報『事故種別不搬送理由別不搬送件数』をもとに作成)



3.救急と自殺既遂の関わりの多さ

この2つのデータから、フジノが注目していただきたいのは『死亡』です。

1のデータは「救急隊が病院に運んだけれども、残念ながら亡くなってしまった」という場合を意味しています。

2のデータは「救急隊が現場に到着した時には、残念ながらすでに亡くなってしまっていた」という場合を意味しています。

この1と2を合算すると、救急が関わった自殺の犠牲者数になります。

横須賀市の自殺による犠牲者数は平均70〜80名/1年間ですから、つまりこのデータから導き出せる結論は、横須賀市の自殺の犠牲者のうち、救急は半分以上の方々と接点がある、ということです。

 年 自殺者数  救急と接点あり  割合
 2002  108人 58人 53.7%
2003 96人 45人 46.8%
2004 97人 44人 45.3%
2005 95人 56人 58.9%
2006 103人 55人 53.3%
2007 94人 51人 54.2%
2008 107人 59人 55.1%
2009 82人 57人 69.5%
2010 97人 72人 74.2%
2011 84人 65人 77.3%
2012 82人 61人 74.3%
2013 75人
2014 96人 70人 72.9%
2015 75人 59人 78.6%
2016 57人 48人 84.2%
2017 66人
2018 54人

(自殺犠牲者数は2014年まで厚生労働省の『人口動態』から。2015・2016年は警察庁データから)


最も少なかった年でも45.3%、最も多かった年では86.7%にものぼります。

横須賀では自殺の犠牲者の約4〜8割もの方々が救急隊と接点があるのです。



4.救急による遺族支援のきっかけ

こうしたデータを見ると、自死遺族の方々と最も早く接することができる公的な立場なのは(警察ではなく)『救急』である場合が多いことが分かります。

つまり、自死遺族の方々への今後の支援の入り口になれる可能性があるということです。

ただし、フジノが救急隊員の方々をヒアリングしたところ、実際には現場での搬送において(あるいは不搬送の際において)、ご遺族の方々とお話をして遺族ケアにつなげるようなタイミングを持つことはかなり難しそうだとのことです。

けれども、方法は必ずあるはずです。

すでにいくつかの提案(例えばリーフレットを置かせて頂くなど)は市議会で行なってきましたが、さらに現実的なアプローチ方法を提案していきたいと考えています。

横須賀市が進めてきた『自死遺族の分かち合いの会』ですが、残念ながら参加して下さる方の数は毎回ひとけたです。本来ならば、もっとご遺族の方々にご利用していただきたいというのがフジノの願いです。

こうした支援への入り口として、ご遺族のお気持ちを決して踏みにじること無く、寄り添う形で、何とかサポートさせていただけないかといつもいつも考えています。



5.フジノが行なってきた議会での提案

参考までに、フジノが議会で行なってきた提案をご紹介します。

提案してきた量が多い為、一部のみ抜粋です。



2003年12月8日・本会議・市長への一般質問

フジノの質問

個人情報の保護は非常に重要な施策であり、個人のあらゆる情報が保護されることは、今や基本的人権の1つとも言えるものです。

しかしながら、市役所の部局間で有機的な意味での「データ」の受け渡しが可能になれば、自殺予防対策はより有効に機能することができるはずです。

例えば、『自殺の通報』があって、消防局と県警が出動したとします。

現在では、神奈川県警がこのデータを他の部署に渡すということはあり得ません。

しかし、遺族のケアということを考えた場合に、このデータを保健所に受け渡すということは果たして問題でしょうか?

その後に行われる『介入の効果』と『遺族のケアの必要性』を考慮すると、個人情報保護を貫くことよりも重要ではないでしょうか。

別の例としては、自殺未遂者の場合があります。

自殺未遂者は、助かっても繰り返し自殺未遂を行ない、ついには自殺してしまうというリスクがあります。

自殺の通報を受けて緊急出動した消防局が、一命を取りとめた自殺未遂者のデータを保健所に渡すというのは、果たして本当に問題でしょうか?

確かに、個人情報保護という観点では問題です。

けれども、人命というリスクを考えた際には、ケアの対象に働きかける機会をつくることの方がより重要ではないでしょうか。

市民部青少年課では、既に4者協議会という公式な形で、家庭裁判所や警察などとともに事例の研究や連絡調整を行っています。

こういった形で事例研究を含めてデータの受け渡しを行えないものでしょうか。

また、今述べた2つの例は、個人情報保護という意味では極端なケースではありました。

けれども、日常的な部局間のデータ受け渡しもなされるべきです。

例えば、経済部に経営相談に来た市民であっても、うつ傾向が強いと担当者が判断したならば、保健所につなげていくことなどは徹底されなければいけません。

個人情報の保護とケアの必要性をはかりにかけた場合のデータ受け渡しの可能性と、部局間の日常的なデータ受け渡しの積極化について、この2点について市長はどのようにお考えでしょうか。



市長の答弁

市の各部局ごとにデータや成果の共有が作成されず、ばらばらに行われていないかとのお尋ねであります。

本市では、「こころの健康づくり」、すなわち精神保健福祉事業は、保健所が中心となって行っています。

御指摘のように、メンタルヘルスの事業は年齢により関連部局が担っておりますが、核となるのは保健所であることから、保健所を中心に必要なネットワークが構築されていると思います。

相談者の状況に応じては、各部局間で連携して情報を共有し、対応しております。今後、一層の連携を強化してまいります。




2006年5月30日・本会議・市長への一般質問

フジノの質問

(2)救急で搬送された自殺未遂者の把握とケアについて。

日本医師会の自殺予防マニュアルによると、自殺未遂歴のある人は、一般の方の数十倍の確率で実際に自殺してしまうとされており、自殺未遂をした方のケアを行うことは自殺を減らす上でとても重要です。

しかし、現在は自殺未遂をした方の把握がなされていません。

軽症な自傷行為を把握するのは困難ですが、通報により救急で搬送された自殺未遂の把握は可能なはずです。

本市の救急車の出場における内訳を見ると、平成16年10月から平成17年9月の1年間で、故意に自分自身に傷害などを加えた事故を指す自損行為は合計261件、毎月平均21.8件となっております。この自損行為の中からさらに詳しく自殺未遂を把握するべきではないでしょうか。

また、自殺未遂は繰り返されることが多いため、把握したデータを台帳登録していくべきではないでしょうか。

これにより、通報を受けた時点で既往歴などを把握できるため、通報内容によって救急隊の増員などの対応が可能になります。

さらに、自殺未遂をした方が退院後も継続的にケアを受けられる体制づくりを行うべきではないでしょうか。現場の救急隊員は自殺未遂を把握していながらも、病院への搬送という非常に短い時間しか本人や御家族と接触することができません。

しかし、救急と精神保健福祉スタッフとが連携して、自殺未遂で病院に救急搬送された本人または御家族から同意が得られた場合、継続的な保健師の派遣、精神科受診への結びつけ、相談機関の紹介などを行って、再び自殺をしようとしないための働きかけを行うのです。

以上の点について、市長の考えをお聞かせください。



健康福祉部長の答弁

次に、救急で搬送された自殺未遂者の把握とケアについてです。

自殺未遂者の把握を行うべきではないか、また退院後も継続的にケアを受けられる体制づくりを行うべきではないかについて。

自殺未遂者の把握については、個人情報の課題があり、また救急病院に搬送された自殺未遂者の退院後のケアについては、国は精神科医や相談機関によってフォローアップされる体制づくりを課題の1つとしており、今後この研究の成果を待ちたいと思います。




2006年9月28日・本会議・市長への一般質問

フジノの質問

(3)救急搬送された自殺未遂者が退院後も継続的なケアを受けられるように、搬送先医療機関に協力を依頼すべきではないか。
自殺未遂の再発防止には、精神的ケアと未遂へ追い込まれた社会的要因へのサポートが不可欠です。

しかし、そもそも自殺未遂者といかにして接点を持つかという難題があります。

その答えの1つが、救急との接点です。

本市では、年間約1,000名の未遂者がいると推計されますが、平成18年消防年報によると、自殺未遂で救急車に運ばれた方、約200名、何と2割もの未遂者が救急と接点を持っているのです。

このかすかな接点を決して見過ごしてはいけません。

しかし、現状で、119番通報で救急と接点を持った未遂者が退院後も継続して何らかのケアを受けているかといえば、僕の実感では、ノーです。

例えば「死にたい。大量服薬をしてしまった」と助けを求める電話をかけてきた人がいます。

何とか救急車を手配して病院に搬送され、応急手当をされた後、退院をします。

処置に当たったドクターは、精神科病院への紹介状を渡して、通院するよう助言してくれます。

しかし、追い込まれた末の自殺未遂なので、あらゆる意欲が低下しており、自発的に通院することは少ないです。

むしろ何もサポートがないまま、追い込まれたもとの環境に戻されて、未遂を繰り返すパターンが多いのです。

こうして生きていくエネルギーが失われ、未遂が既遂へと至るのです。

そこで、今回あえて提案したいのは、本人の同意を得るという前提で、積極的な介入を行うことです。

救急搬送された未遂者が退院後も確実にケアが受けられるように、搬送先病院に協力をしてもらうのです。

現在は、救急で処置をすれば、精神科への紹介状を渡されて退院ですが、ここで未遂をした本人に同意を得て、ドクターが保健所の精神保健福祉相談員へ連絡をとるのです。

そして、精神保健福祉相談員は未遂者に対して電話や派遣による相談や通院支援を行います。

こうした適切なサポートがあれば、再発は防げるのです。

そのためには、救急搬送先の医療機関に協力を得なければいけませんが、市と救急指定8病院、医師会長らによる救急業務関係機関会議の場、または3市1町の輪番制病院などによる二次救急当直体制検討会の場などを利用して、救急搬送先の医療機関に協力を依頼するのです。

自殺未遂の再発防止の手段の一つとして、こうした体制づくりを行うべきだと考えますが、市長の考えをお聞かせください。




(4)救急とかかわった自殺者の遺族に対して、本人の同意を得て遺族ケアへつなげられる体制づくりを行うべきではないか。

さきの質問と同じ趣旨で、救急とのかかわりを糸口にした遺族ケアへの体制づくりについて伺います。

救急とかかわった自殺者は、1、救急車に搬送されたけれども亡くなった場合、2、既に亡くなっていたために搬送しなかった場合と、統計上の2区分を合計すると56名であり、本市の自殺者数の約60%にも上ります。

これだけ多くの方が救急とのかかわりがあることは、遺族ケアにつなげる体制づくりに活用すべきです。

例えば搬送先の病院で亡くなった方の場合は、救急搬送先医療機関の協力により、遺族本人の同意を得て、ドクターに精神保健福祉相談員へ連絡してもらう。

あるいは精神的なケアや、自殺に追い込まれた社会的要因の解決につながるサポート、例えば多重債務の整理の相談先などを一覧にした小冊子を手渡してもらうのです。

救急車が到着したとき既に亡くなっていた場合も、遺族本人の同意を得て、救急隊員が精神保健福祉相談員に連絡をする、または小冊子を手渡す。

いずれにしても、遺族のプライバシーを損なうことなく、しかし救急とつながったという手がかりを決して見過ごさない、有効な対策となり得ます。

遺族ケアへとつなげる体制づくりの手段の一つとして、こうした対策をとるべきだと思いますが、いかがでしょうか、市長の考えをお聞かせください。



健康福祉部長の答弁

救急搬送された自殺未遂者、また自死遺族のケアのために、救急医療機関や救急隊員の協力を得て、自殺未遂者、また自死遺族のケアにつなげる体制づくりを行うべきではないかについてです。

自殺未遂者、また自死遺族の方々へのケアについては、精神保健的観点からのみならず、実態に即してケアされるよう、警察、消防、医療機関などにも入ってもらう協議会の中で検討していくことを考えています。




2009年3月3日・本会議・市長への一般質問

フジノの質問

(2)自殺未遂に追い込まれた方々の再発防止の取り組みの必要性。

ア、神奈川県警の協力を得て、自殺未遂に追い込まれた方々の情報提供を受けて、本市も再発防止生活債権に取り組むべきではないか。

自殺未遂が発生した際、事件性の有無を確認するために、搬送した救急や病院などの関係機関は、その情報を警察に届け出る義務があります。

大阪府警西成署は、数年前から御本人の同意を得て健康福祉センターに情報を提供し、センターは未遂者の再発防止、生活再建に取り組んできました。

その高い効果を受けて、大阪府警本部と堺市は、この仕組みを新たに事業化します。本市でも現場の警察官の方々にお話を伺うと、自殺未遂をした方に事情聴取をした後、激励する以外に何もできない現状に悔しさを感じていた方々も多くいらっしゃいました。

そこで市長に伺います。

本市も堺市と同様に神奈川県警の協力のもと、御本人の同意を得て情報を本市に提供していただき、個々人の置かれた状況に応じて関係機関と連携しながら、必要な支援につなげていく再発防止・生活再建を行うべきではないでしょうか。

イ、消防局統計における自損のデータを新たに区分し、自殺対策連絡協議会等に情報提供すべきではないか。

救急が扱った自損の統計データは、その重症度別のデータなので、自殺未遂に追い込まれた方々の分析や支援には使えません。

そこで、個人情報が特定されない範囲で新たに区分を設けて、例えば1、性別、2、5歳刻みでの数値など自殺対策連絡協議会等に情報提供すべきではないでしょうか。

警察と救急から自殺未遂の情報をいただいて、その後の再発防止のために問題解決、生活支援を行うことができれば、必ず自殺を減らすことができます。ぜひ新たな取り組みに挑戦していくべきです。



市長の答弁

次は、神奈川県警の協力を得て、自殺未遂に追い込まれた方々の情報提供を受けて、再発防止等に取り組むべきではないかという点でございます。

お話の堺市の取り組みについて研究し、関係機関とどのような連携体制がとれるか検討してまいります。

次に、消防局統計における自損の、より詳細なデータを自殺対策連絡協議会に情報提供すべきではないかという点でございます。

自損のデータは、自殺防止の検討に役立つと思われますので、自殺対策連絡協議会からの要望があれば、個人情報保護条例に抵触しない範囲で提供したいと、このように考えております。




2010年6月14日・民生常任委員会・質疑

フジノの質問

最後に自殺対策について、消防局と健康福祉部にお話を伺って質問を終わります。

まず、消防局に伺いたいのですが、昨年度の最後に健康福祉部が主催をして救急職員対象の研修が行われました。

年度末に急に開催したので、救急隊員の方はほとんど参加できなかったのですが、それでも本当に熱心に学んでいただいてありがたかったと思います。

ぜひ、こうした取り組みを健康福祉部と協議しながら、特に今年は横須賀共済病院とも自殺未遂者対策に乗り出しますので、継続的に進めていっていただきたいと思いますが、消防局としてはいかがお考えでしょうか。



消防局長の答弁

消防局といたしましても、自殺問題というのは以前から問題になっておりまして、それらの会議にも出まして、消防局として必要な救急に関する出せる資料は提供していきたいと思いますので、これから一緒に検討していきたいと思います。よろしくお願いします。